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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)145号 判決 1999年4月21日

甲事件原告兼乙事件被告補助参加人

西神テトラパック株式会社

右代表者代表取締役

柚木善清

右訴訟代理人弁護士

八代徹也

乙事件原告兼甲事件被告補助参加人

全日本金属情報機器労働組合西神テトラパック支部

右代表者執行委員長

工藤雄二

乙事件原告

工藤雄二

右両名訴訟代理人弁護士

羽柴修

本上博丈

松本隆行

森賀幹夫

生駒巌

鴨田哲郎

甲、乙事件被告

中央労働委員会

右代表者会長

花見忠

右指定代理人

菅野和夫

浜田直樹

田中正則

吉住文雄

熊谷正博

山下陽

主文

一  甲、乙事件被告中央労働委員会が中労委平成六年(不再)第四五号事件について平成九年五月七日付けでした命令のうち、主文Ⅰの4を取り消す。

二  甲事件原告西神テトラパック株式会社の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、甲事件原告西神テトラパック株式会社と甲、乙事件被告中央労働委員会との関係では、参加によって生じたものを含め、甲事件原告西神テトラパック株式会社の負担とし、乙事件原告全日本金属情報機器労働組合西神テトラパック支部及び乙事件原告工藤雄二と甲、乙事件被告中央労働委員会との関係では、参加によって生じたものを含め、甲、乙事件被告中央労働委員会の負担とする。

事実及び理由

(当事者等の略称)

甲事件原告兼乙事件被告補助参加人西神テトラパック株式会社を「原告」又は「会社」という。

乙事件原告兼甲事件被告補助参加人全日本金属情報機器労働組合西神テトラパック支部を「組合」、乙事件原告工藤雄二を「工藤」といい、両名を合わせて「参加人ら」という。

甲、乙事件被告中央労働委員会を「被告」という。

第一請求

一 甲事件

被告が中労委平成六年(不再)第四五号事件について平成九年五月七日付けでした命令のうち、主文Ⅰの1ないし3及びⅡを取り消す。

二 乙事件

被告が中労委平成六年(不再)第四五号事件について平成九年五月七日付けでした命令のうち、主文Ⅰの4を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が工藤に対し平成五年一月一日付けで製造管理部ドクターマシン部門への配転を命じたこと(以下「本件配転」という。)は、不当労働行為に当たるとして、工藤を原職相当職に復帰させることなどを命じた兵庫県地方労働委員会(以下「兵庫県地労委」という。別紙1<略>)の命令(以下「初審命令」という。)を変更した被告の命令(以下「本件命令」という。別紙2<略>)について、原告及び参加人らの双方がその取消しを求めている事案である。

一 前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか又は括弧内記載の証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる。

1 当事者等(<証拠略>)

(一) 原告は、液体食品の容器に供する紙パックの製造等を業とし、肩書地に本社を、神戸市に工場を有する株式会社であり、昭和五四年一月に設立され、従業員数は平成五年一月当時約二六〇名であった。

(二) 組合は、原告の従業員によって組織された労働組合であり、昭和五六年七月一日に西神テトラパック労働組合として結成されたが、平成六年一月三〇日に全日本金属情報機器労働組合(以下「JMIU」という。)に加入したことに伴い、その名称を頭書記載のとおり改めた。

(三) 工藤は、原告の従業員であり、平成四年当時、品質向上推進グループ及び工程改善プロジェクトチーム(以下「直轄チーム」という。)に所属していた。工藤は、結成当時の西神テトラパック労働組合の執行委員長に就任するなどした、一貫して組合の指導的立場にある組合員で、平成四年当時は、八月末まで執行副委員長であったが、九月には執行委員長に就任し、現在に至っている。

2 労使関係の推移

(一) 本件雇止め問題をめぐる労使関係(<証拠・人証略>)

(1) 平成四年六月一〇日、会社は、同年五月に発表したコスト低減計画の名称による、人件費の削減を柱とした経営合理化計画の一環として、三か月又は一か月の期間の定めがある雇用契約を更新していたパートタイマー四名(いずれも組合の組合員)について、期間満了をもって雇止めをする(以下「本件雇止め」という。)旨を、本人ら及び組合に通告した。組合は、本件雇止めはパートタイマーの雇用終了について会社の留意事項を定めた平成二年九月一八日付け覚書に違反する不当解雇であると主張して、その撤回を求めたが、会社はこれに応じなかった。

同年六月一一日、組合は、三六協定を破棄する旨会社に通告した。翌一二日に行われた団体交渉(以下「団交」という。)の席上、組合は会社に対し、本件雇止めの撤回を求める要求書を提出する一方、前日にした三六協定の破棄通告についてはこれを撤回した。その後、同月一五日、二三日の労使協議会においても本件雇止め問題について話合いが行われたが、労使双方の主張は平行線をたどった。組合は、同日、三六協定を破棄する旨及び翌二四日午後三時から組合員二二名による無期限指名ストライキに入る旨を会社に通告して、これを決行し、翌二五日には新たに組合員三名をこれに加え(会社への通告は前日)、翌二六日には午前七時をもって全組合員による無期限ストライキに突入した(会社への通告は前日)。なお、組合は、平成二年以降、それまでの労使協調路線を改め、春闘、秋闘において時限ストライキを行ってきたが、今回のような無期限全面ストライキを実施したことはなかった。

(2) 会社は、平成四年六月二四日付けで山本総務課長名義の文書を作業員に配布して、本件雇止めに対する理解を求め、同月二五日には、「常道を逸したストライキを行って良いものでしょうか。」などの記載のある同課長名義の文書及び「最初から存在しない「解雇」を言いたて私達の工場を危機におとしいれようとしている今回の無期限ストは正気の沙汰ではありません。」などの記載のある会社名義の文書を従業員に配布して、無期限全面ストライキへの参加を思い止まるよう呼びかけた。そして、同月二九日には、秋山尚男工場長(以下「秋山工場長」という。)名義で従業員に対し就労を要請する文書を配布したが、それには「会社はストライキを正当化させるような解決は選択しない事を決意しました。」などの記載が含まれていた。

組合は、同日午後五時一五分をもって無期限全面ストライキを解除し、翌三〇日には、先のパートタイマー四名が会社からの雇止め通告を無条件で受け入れるに至り、本件雇止め問題は一応の終息を見た。

(3) 同月三〇日、会社は、「もともと存在しなかった「解雇」を意識的に取り上げ、残業拒否・無期限指名スト・無期限全面ストを打ち、会社を危機に追い込むと同時に従業員の皆さんの生活をおびやかした組合執行部の動きは一体何んだったのでしょうか。たしかに、ストライキは労働者の権利として認められているものですが、闘争のための闘争、ストライキのためのストライキといった闘争至上主義のオモチャにされては絶対にいけないと考えます。」などの記載のある文書を従業員に配布した。また、同年七月一〇日には、「今回の争議に関する会社側の総括」と題する文書(以下「文書(一)」という。別紙(一)<略>)を従業員に配布したが、それには「今回の一連の行為は「パートの為」を名目にした、闘争のみが目的であったと会社は判断し、その確認を急いでおります。」「争議指導の誤り」や「今回の闘争での執行部の収拾能力のなさ」などの記載があった。

(4) 同年七月上旬、秋山工場長は、インフォメーションミーティングと呼ばれる、会社の方針等について従業員に情報を伝達する場において、従業員から、一連の争議について会社側では組合執行部に対して何か処分を考えているのかという趣旨の質問を受け、「就業規則に反するようなことがあれば、それなりの処分は考える。ただし、それは組合執行部であるとか組合員であるとか非組合員であるとか、そんなことは問題ない。」旨答えた。

(5) 会社は、従前、組合からの賃金カットの申請により、就業時間中における執行委員会の開催を認める取扱いをしていたが、同月以降は一切これを認めなくなった。

(二) 平成四年度冬期賞与をめぐる労使関係(<証拠略>)

(1) 組合は会社に対し、同年一〇月一二日付けで冬期賞与についての要求書を提出した。会社は、同年一一月二七日、組合の要求に対する回答と合わせて、先のストライキ((一)の(1))に参加し就労しなかった時間を労働時間から控除し、これに相当する金額を賞与の支給額から控除する旨の方針を示した。組合は、この方針に反対の立場から会社と交渉を重ねたが、結局、同年一二月一七日に行われた団交において、ストライキ参加分のカットを受け入れる方向で妥結した。

(2) 同月八日、会社は、組合との賞与に関する協議の経緯等について説明した文書(以下「文書(二)」という。別紙(二)<略>)を従業員に配布したが、それには「今までの交渉の経緯を振り返りますと、一部の組合幹部の当社業績や一般的不況を無視し些細なことにとらわれた闘争至上主義からは何も生まれてこないばかりか、会社を更なる困難と危機に導く結果となると思われます。」などの記載が含まれていた。

また、会社は、同月二五日にも従業員に文書(以下「文書(三)」という。別紙(三)(略))を配布したが、それには「今年は組合員の皆様には例年より一五日遅れて賞与が支給されるわけですが、こうした事態は、皆様の日々の実生活の重要性を十分認識していない組合執行部の「会社を困難に陥れることをあえて行う」闘争至上主義によるものと考えます。今回の団交時に「会社はつぶれても西神労働組合は存続する。」と組合執行部が言明したことからも、今回の事態を招いた責任が賞与の協議をかくれみのに闘争自体を選択した組合執行部にあるといえます。」などの記載が含まれていた。

(三) 本件配転の経過及びその前後の労使関係(<証拠・人証略>)

(1) 会社は、同年一〇月二〇日の労使協議会において、コスト低減計画の一環として、間接部門における部課制の廃止、スペシャリストグループの統合等の組織変更に加え、直接部門におけるマシン定員(機械ごとに決められているオペレーターの数)を削減する方針を示し、その理由は販売力の減少による競争力の低下にあると説明したのに対し、組合は、すべて会社の責任である、いつも従業員にツケを回してくるなどと言って不満を表明した。同年一一月一七日の労使協議会においても、マシン定員の削減について話し合いが行われたが、会社は、マシン定員の削減により二〇名の余剰人員が発生するため配転もあり得るとの見方を示し、これに対し組合は、合理化の必要性は認められず、余剰人員を生むことも一切認めるわけにはいかないとして反発し、労使双方は真っ向から対立した。この間、組合では、勤務の直ごとに職場会を開いて意見交換を図っていた。

同月二四日、原告は、直轄チームの解散を含む会社の組織変更をすることを前提とした平成五年一月一日付けの人事異動を内示した。異動対象者は、三一名で、この中には、直轄チームの解散による、同チームのメンバー六名全員が含まれており、工藤は、製造管理部ドクターマシン部門への異動(本件配転)を内示された。

同月二七日、組合は会社に対し、「現従業員の実数に対しての人員配置を行うことを要求する。」との要求書を提出して、同日行われた団交の席上、マシン定員の削減には全面的に反対するとの意向を表明した。

同年一二月八日の労使協議会において、会社は組合に対し、平成五年一月一日から向こう一年間の三六協定の締結を申し入れたが、組合はこれを拒否した。

(2) 同月二八日、前記三一名の人事異動が発令され、工藤は、平成五年一月一日付けで直轄チームから製造管理部ドクターマシン部門への配転を命ぜられ(本件配転)、同日以降、同部門における機械のオペレーター(スタッフ)として稼働することになった。

(3) 平成五年一月六日、会社は、三六協定締結の必要性等について説明した文書(以下「文書(四)」という。別紙(四)<略>)を従業員に配布したが、それには「西神工場では、この不況を乗り切るために合理化案を組合に提案している所でありますが、このような大事な時期に三六協定が結べなければ会社運営に重大な影響を与えるのはもちろん、本年度のベースアップ更には夏の賞与の支給も難しい状況に追い込まれることも予想されます。このような多方面に影響を与える大きな問題を組合員の意向/生活状況も確認せず執行部や委員長のみの判断で一方的に決めることを許していいのでしょうか!!三六協定はあくまで組合と会社の合意においてなされるものであります。従って皆様方が力を合わせ一致団結し現在の執行部の方針を変えない限り本年度の三六協定は結べず残業手当も支給できません。今こそ皆様方の良識ある行動により西神工場の再建を労使一体となってやっていこうではありませんか。」などの記載が含まれていた。

(4) 同月八日、会社は、余剰人員の数を一七名と下方修正した。そして、その後も労使協議会においてマシン定員の削減について話し合いが行われたが、マシン定員の削減自体に反対の立場を採る組合との間で協議は平行線をたどり、同年三月二二日、組合との協議が整わないままマシン定員の削減を実施した。これに対し、組合は、同月二六日、「各マシンの人員配置を元に戻すことを要求する。現に協議中であった合理化案を合意を見ないままむりやり実行したことに遺憾の意を示し、直ちに元に戻すことを要求する。」との要求書を会社に提出した。

(5) その後、組合は、平成五年の春闘に際し、賃上げと夏期賞与に関する要求をしたが、会社は、同年四月七日付けで、三六協定が締結されないような異常な状態が解消されない限り、組合の主張するような賃上げには応じられないし、夏期賞与については一切回答することができないとの回答をした。

組合は、同月二五日、臨時大会を開き、三六協定を締結することを決議し、翌二六日に行われた労使協議会の席上、マシン定員の削減に関する先((4))の要求を取り下げ、翌二七日の労使協議会において、会社との間で、平成五年度に締結した三六協定を更新し、今後一切三六協定不締結を会社との交渉における取り引き材料としないことなどを盛り込んだ協定を締結した。

(四) 不当労働行為の救済申立て

(1) 組合は、本件配転は不当労働行為に当たるとして平成四年一二月二五日、会社を被申立人として兵庫県地労委に不当労働行為の救済を申し立てた(兵庫県地労委平成四年(不)第一一号。)

(2) 秋山工場長は、平成五年一月中旬ころのインフォメーションミーティングにおいて、「組合が会社を訴えた。これは、結果的には、組合員一人一人が会社を訴えたことになる。」旨の発言をした(以下「秋山発言(一)」という。)が、これは、本社との調整の上で作成された原稿を読み上げたものであった。

(3) 組合は、同年一月二一日、(1)の救済申立てを取り下げ、同日、工藤が申立人となり、(1)と同様の不当労働行為の救済申立てをした(兵庫県地労委平成五年(不)第一号)。

(4) 組合は、同年三月六日の臨時大会において、本件配転について改めて不当労働行為の救済申立てをすることを決議し、同年四月九日、(1)と同様の不当労働行為の救済申立てをした(兵庫県地労委平成五年(不)第三号)(以下「本件救済申立て」という。)。

(5) 秋山工場長は、同月二三、二四日のインフォメーションミーティングにおいて、「会社としては和解は考えておらず最高裁まで争う。和解をすると、その和解金が弁護士と支援組織に流れる例があるということは経営者の間では常識になっている。」旨の発言をした(以下「秋山発言(二)」という。)。

(6) 兵庫県地労委平成五年(不)第一号及び同第三号は、兵庫県地労委において併合審査されたが、さらに、参加人らは、同年七月八日付けで、原告は組合の組合員に対して組合からの脱退を勧奨したり、組合を誹謗中傷したりして、組合の組織、運営に支配介入してはならないなどの申立てを加える追加的変更の申立てをした。

3 本件命令の発令

兵庫県地労委は、前記事件(平成五年(不)第一、三号)について、平成六年一二月六日付けで初審命令を発し、会社はこれを不服として被告に対し再審査申立てをした(中労委平成六年(不再)第四五号)。被告は、同事件について、平成九年五月七日付けで本件命令を発した。

二 主たる争点

1 本件救済申立ての適否

2 本件配転についての不当労働行為の成否

3 本件各文書の配布及び秋山発言についての不当労働行為の成否

4 平成五年四月ころの脱退勧奨の有無及び右事実についての不当労働行為の成否

5 平成六年二月ころの脱退勧奨の有無及び右事実についての不当労働行為の成否

6 初審命令を維持して救済を命じた部分についての救済利益の有無

三 当事者の主張

1 原告

(一) 本件救済申立ては、次の二つの理由により不適法であり、被告がこれを看過した初審命令を維持して救済を命じた部分は違法である。

(1) 本件救済申立ては、組合が先にした救済申立て(兵庫県地労委平成四年(不)第一一号)をいったん取り下げた後にしたものであるが、右取下げにより組合は本件配転につき救済利益を放棄した以上、改めて救済利益が発生することはあり得ないし、再度の救済申立ては救済手続における信義則に違反するというべきである。したがって、本件救済申立ては不適法である。

(2) 本件救済申立ては、平成五年三月六日に開催された組合の臨時大会における決議に基づくものであるが、右大会は、組合規約で定める定足数に満たない無効な大会であるから、そこでされた右決議も無効である。したがって、本件救済申立ては不適法である。

(二) 本件配転については、次に述べるとおり不当労働行為は成立しない。

(1) 本件配転は業務上の必要性に基づくものである。

すなわち、本件配転は、工藤の所属していた直轄チームの解散に伴うものであるから、そのメンバーを他の部署に配転させる必要性があることは明白である。そして、工藤を製造管理部ドクターマシン部門に配転したのは、<1>工藤の工務部門における従前の勤務ぶりに問題があったこと、<2>製造部門における業務が会社の主たる業務であること、<3>コスト低減計画における直間比率の見直しを受けて当時製造部門への人員シフトが行われていたことがその理由である。

(2) 本件配転の内示当時、労使関係が格別緊張関係にあったという事実はない。

すなわち、平成四年春ころから問題となっていた本件雇止め問題は、同年七月八日の団交における組合の「パート問題については今後要求をしない」旨の言明をもって終結し、三六協定の問題も、同日の団交において組合から「三六協定の締結問題を今後闘争の道具には使わない」との言明があり、決着していた。したがって、本件配転の内示があった同年一一月当時労使の協議事項となっていたのは、冬に支給を予定している冬期賞与の問題と、コスト低減計画に関する問題の二つのみであった。このうち、前者は、毎年この時期に協議される問題であり、特段労使関係の緊張関係をもたらすものではない。また、後者は、平成四年五月からの流れの中で交渉を継続し、平成五年四月二六日をもって組合も要求を取り下げて決着をみている問題であり、本件配転の内示当時、特段の変化があったわけではない。

(3) 本件配転が不利益取扱いに当たるとの主張について

ア 職務上の不利益をいう点について

参加人らは、本件配転により電気技術者としての知識・経験が不必要となる点をとらえて不利益と主張する。しかし、そもそも工藤の職務は雇用契約上電気技術職に限定されているものではない。また、本件配転直前に工藤が所属していた直轄チームの業務は電気関係の業務ではないから、工藤は入社後一貫して電気関係の業務に従事してきたというわけでもない。したがって、工藤が電気技術者であるという前提自体失当である。そして、配転後、従前従事していた職務に関する知識・経験がさほど必要でなくなることは配転に伴う当然の結果であり、これをとらえて不利益ということはできない。

また、参加人らは、本件配転は実質的には降格であり、不利益な取扱いであると主張する。しかし、給与等級が下がらない限り降格ということはないところ、本件配転は、給与等級の変更を伴わない異動であるから降格ではなく、不利益性はない。かえって、賃金面では三交代勤務による手当増が見込まれる、利益をもたらす異動である。なお、参加人らが降格の徴表として主張する「主任」というのは単なる呼称であって、本件配転後も工藤が使いたければ自由に使ってよいものである。

イ 組合活動上の不利益をいう点について

参加人らは、本件配転により三交代勤務になったため団交や労使協議会に欠席せざるを得ない場合が生じたことが不利益であると主張する。しかし、団交等の日程は、労使双方の合意によって決まるもので、会社の判断だけで決めているのではないから、工藤の出席が必要不可欠であると組合が判断するならば、工藤の都合のつく時間を期日とすれば足り、それをしないで団交等に出席できないからといって不利益ということはできない。

また、参加人らは、本件配転により三交代勤務になったため執行委員長としての組合員との日常的な意思の疎通が困難になった点が不利益であると主張する。しかし、そもそも職場における就業時間中の組合活動は従前から会社の許可がない限り禁止されているから、参加人らの主張する組合員との日常的な意思の疎通なるものが就業時間中の組合活動を意味しているのならば、それ自体違法であって、それができなくなるからといって不利益ということはできない。

(三) 本件各文書の配布及び秋山発言について

(1) 使用者の言論活動については、労使対等の原則により、労働組合の言論活動と同様の保障が与えられなくてはならず、それが不当労働行為(支配介入)に当たるかどうかは、労働組合の情宣活動における正当性の判断基準と同様の基準によって判断すべきである。

(2) 右のような見地からすれば、次のとおり、本件各文書はいずれも組合の行動に対する正当な批判であり、また、秋山発言には虚偽の事実や組合に対する誹謗中傷は含まれていないから、これらについて不当労働行為が成立する余地はない。

ア 文書(一)について

組合は、パートタイマーの雇用終了に関する覚書について誤った解釈に立ち、本件雇止めは期間満了による雇用契約の終了であって解雇ではないのに解雇であると虚偽の主張を繰り返し、団交を経ることなく、しかも、争議行為の開始を大会付議事項と定める組合規約に違反して何ら大会を開催することもなく、違法な争議行為に突入した。このような組合の行為に対して「闘争のみが目的であった」というのは、当然の評価というべきである。

イ 文書(二)及び(三)は、いずれも組合の考え方や行動に対する正当な批判を内容とするものであり、組合も全従業員に教宣活動を行ったのであるから、当然会社も同様の措置を採ることが認められてしかるべきである。

ウ 文書(四)について

組合は、平成四年七月八日の団交において、三六協定を闘争の道具には使わないと言明したにもかかわらず、同年一二月八日の労使協議会の席上、次年度の三六協定の締結を拒否する旨一方的に通告したのであるが、当時三六協定に関する組合員の考え方は一枚岩ではなく、これを締結しないことについて不満が存在したこと、その不満が噴出した結果、組合はその後方針を改め、三六協定を締結せざるを得なくなったことに照らしても、「委員長の独断で一方的に決める」という評価は当然である。

エ 秋山発言(一)は、労働組合は権利能力なき社団であるから、民法の組合契約に関する規定が適用される結果、労働組合の行為は各構成員である組合員の責任に属することになるという、法律上正しいことを明らかにしたものにすぎない。

オ 秋山発言(二)は、和解はしないという会社の方針を述べた後、和解金が弁護士と支援団体に支払われるという、労働事件における和解の一般論を述べたものに過ぎない。

(四) 被告が本件命令に係る命令書(以下「本件命令書」という。)の理由第2の7で認定した職制による脱退勧奨の事実は存在せず、不当労働行為が成立する余地はない。

(五) 被告が本件命令書の理由第2の8で認定したプロダクションエンジニア(以下「PE」という。)らによる脱退勧奨の事実は存在しない。PEは組合員資格を有するから、仮に組合問題について何か発言したとしても、不当労働行為の対象となる使用者の行為とされるいわれはない。

(六) 救済利益の消滅

組合は、被告が支配介入に当たるとした原告の行為につき、神戸地方裁判所に対し、原告に損害賠償を求める訴えを提起し、平成一〇年六月五日、同裁判所において言い渡された一部認容判決(以下「本件判決」という。)に基づき、仮執行をした。これによって、被告が初審命令を維持して救済を命じた部分については、救済利益が消滅した以上、違法なものとして取り消されるべきである。

2 参加人ら

(一) 本件救済申立てが不適法であるとの主張について

(1) 組合が先にした救済申立て(兵庫県地労委平成四年(不)第一一号)をいったん取り下げたのは、予算の流用について組合大会の事前の承認を受けていなかった点を問題にされたからにすぎず、救済利益を放棄したものではない。また、右取下げは、申立後わずか一か月程度の調査期日さえ指定されていない段階でしたものであるから、その申立て及び取下げによって原告には何ら不利益が生じておらず、本件救済申立てについて信義則違反が問題となる余地はない。

(2) 不当労働行為の救済申立てが適法か否かは、申立人である労働組合の意思に基づいて行われたか否かによって判断されるべきものであり、組合の大会決議の有効無効に左右されるものではない。組合規約上不当労働行為の救済申立てが大会決議事項とされていないこと、組合はこれまで本件救済申立てを維持・遂行していること、現在の執行部の対外活動の正当性に疑問を抱かせるような事情は存在しないことに照らしても、本件救済申立てが組合の意思に基づいて行われたものであることは明らかである。

(二) 本件配転は、経営合理化計画に反対の立場から工藤が中心となって行ってきた組合活動を会社が嫌悪し、これに対する報復として行った労働組合法(以下「労組法」という。)七条一号所定の不利益取扱いであり、かつ会社の思うがままに合理化を進めるべく組合の弱体化を図って行った同条三号所定の支配介入であって、不当労働行為に当たる。

(1) 本件配転の業務上の必要性及び程度

原告が、工藤を製造管理部ドクターマシン部門に配転した理由として指摘する<1>(工藤の工務部門における従前の勤務ぶりに問題があったこと)及び<3>(コスト低減計画における直間比率の見直しを受けて当時製造部門への人員シフトが行われていたこと)については、そのような事実は存在せず、<2>(製造部門における業務が会社の主たる業務であること)については、製造部門が主たる業務内容であることは従来から変わりはないから、本件配転の理由としては成り立ち得ず、結局、本件配転の業務上の必要性は存在しないか、極めて薄弱なものでしかないというべきである。

(2) 本件配転の内示当時の労使関係

会社は、本件雇止め問題が終息した後も一貫して組合を嫌悪、敵視し、それまでは認めていた就業時間中の賃金カットによる執行委員会の開催を一切認めなくなるなど、組合活動の弱体化を図っていた中で、同年一〇月二〇日の労使協議会の席上、マシン定員の大幅削減などを内容とする合理化案を提示し、これに反対する組合との間でかなり激しいやりとりがされた。次いで同年一一月一七日の労使協議会において、会社は、右合理化案を更に具体化するものとして二〇名の余剰人員が生じるため配転もあり得るとの案を示し、これに反対する組合との間で、やはり相当激しいやりとりがされた。この間、組合では、勤務の直ごとに勤務終了後に職場会を頻繁に開いて意見交換や意思統一を図り、会社のマシン定員削減案に反対する活動を強めていた。本件配転の内示は、このように組合がマシン定員削減による合理化に反対する態度を鮮明にし、かつ反対活動を強めていたまさにその最中の同月二四日にされたものであり、会社は、至上課題であったマシン定員の削減をその計画どおりに実施すべく、そのための一方策として、組合の中心的活動家であって組合員への影響力も大きい工藤に対し、直轄チームの解散に乗じて本件配転を命じたのである。

(3) 本件配転による不利益

ア 職務上の不利益

工藤は、入社以来一三年余りの長期にわたって、第二種電気主任技術者及びエネルギー管理士(電気)という国家資格を有しつつ、一貫して電気関係の業務に従事し、電気技術者としての知識を取得し経験を積んできた。しかるに、配転先のドクターマシン部門の業務は、電気技術者としての知識・経験を必要としない単純作業である。このような業務内容の変化が職務上の重大な不利益に当たることは言うまでもない。

また、工藤は、昭和五九年一月主任に任じられ、以後職位においては主任、給与等級においてはS5とされていた。主任は、チームリーダーの上位、課長補佐の下位に位置する中間管理職たる職位とされている。ところで、配転先の製造管理部の職制は、トップに製造管理部マネージャー、次に製造工程全体の直ごとのPE、その下位に直ごと、機械の種類ごとのチームリーダー、そしてそのスタッフという序列になっており、チームリーダー以下が機械のオペレーターであり、製造部門で給与等級S5といえば、PEになることを意味していた。しかるに、工藤は、PEはおろか、チームリーダーより下位の一スタッフとして、給与等級において下位(S4)のチームリーダーに指導監督されるという立場に置かれた。このような業務上の指導監督に関する立場の変化から見て、本件配転は実質的には降格というべきである。

イ 組合活動上の不利益

本件配転当時、会社は就業時間中の賃金カットによる執行委員会の開催を一切認めなくなっていたことから、組合としてマシン定員削減等の課題に迅速に対応し、団結権を確保するためには、団交・労使協議会での会社との交渉上、あるいは各執行委員への連絡・意見調整上、当時組合三役の中で唯一の日勤者であり、実質的にも組合のかなめであった工藤の果たす役割が極めて重要なものとなっていた。ところが、本件配転により工藤は日勤(午前九時から午後五時一五分まで)から三交代勤務に変わり、一週間ごとに一直(午前七時から午後三時まで)、二直(午後三時から一一時まで)、三直(午後一一時から翌日の午前七時まで)の勤務を変わっていく勤務形態になったことから、団交や労使協議会に欠席せざるを得ない場合(三直のとき)が生じ、また、組合員の半数以上(自分の直と日勤者以外)との日常的な意思の疎通も困難になった。

また、本件配転までは、工務部門から製造部門の機械のオペレーターに配転された者はなかったため、本件配転は、多くの組合員によって、組合の中心人物である工藤に対する報復であり、会社に反抗すれば理不尽な配転を命じられるという見せしめであると受け止められ、組合活動に対する萎縮効果を生んだ。

(三) 本件各文書の配布及び秋山発言について

使用者の反組合的言論活動による支配介入の成否の基準については、組合の結成や組織運営等、組合の自主的決定事項についての言論は広く支配介入になるが、労使の対抗関係に関連する問題や、争議行為の戦術や態様に対する言論は、報復・威嚇や利益誘導等を含む場合に限って支配介入になると狭く解釈する見解がある。

仮に右のような見解に立つとしても、本件各文書による会社の言論は、本件雇止め問題以降極めて系統的かつ組織的に行われ、しかも、執行部の人選や意思決定手続に介入して執行部の方針を変えることを煽動し、あるいは執行部に対する処分や工場が消滅して無くなるといった報復・威嚇を含むものであって、使用者に許される正当な言論の範囲を逸脱しており、支配介入に当たるというべきである。

また、秋山発言は、いずれも威嚇・報復を内容としており、平成四年七月以降、「今の組合だったら西神の将来はない」旨の発言を繰り返し行ってきたことと併せ考えれば、使用者の言論としては明らかに行き過ぎであり、支配介入に当たるというべきである。

(四) 被告が本件命令書の理由第2の7で認定したとおりの脱退勧奨の事実があり、これが支配介入に当たることは明らかである。

(五) 被告が本件命令書の理由第2の8で認定したとおり、一定の時期に多数のPEらが一斉にブラックリスト問題を口実に脱退勧奨をした事実があり、PEらのこのような行為は会社の指示に基づくものと十分推認でき、これが支配介入に当たることは明らかである。

(六) 救済利益が消滅したとの主張について

本件判決に基づき仮執行は確かにされたが、原告は大阪高等裁判所に控訴し、同判決は確定していないうえ、同判決が命じたのは損害賠償であるのに対し、被告が命じたのは不作為及びポスト・ノーティスであって、救済内容が異なるから、右仮執行により救済利益の消長が左右されることはない。

3 被告

本件命令は、労働組合法二五条及び二七条並びに労働委員会規則五五条の規定に基づき適法に発せられた行政処分であって、処分の理由は本件命令書記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはなく、これに反する原告及び参加人らの主張には理由がない。

第三争点に対する判断

一 争点1(本件救済申立ての適否)について

原告は、組合が先にした救済申立て(兵庫県地労委平成四年(不)第一一号)を取り下げたことにより、本件配転につき救済利益を放棄したものであると主張する。しかし、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、組合が右申立てを取り下げたのは、代議員会において申立費用について組合大会の承認がないことを指摘されたためであることが認められ、組合が本件配転につき救済利益を放棄したことを認めるに足りる証拠はない。そして、本件全証拠によっても、本件救済申立てが原告との関係において信義則に違反することを認めるに足りる事情は見当たらない。

また、原告は、本件救済申立ては、定足数に満たない無効な組合大会の決議に基づくものであるから不適法であるとも主張するが、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、組合の規約上、不当労働行為の救済申立てを大会付議事項としたものと解する余地のある規定は見当たらないこと、前記代議員会において組合大会の承認が問題になったのは、不当労働行為の救済申立て自体は正当とされた上で、申立費用の点で予算の裏付けを要するため、その限りで組合大会への付議が求められたものに過ぎないことが認められるから、右主張は、不当労働行為の救済申立てが大会付議事項に当たることを前提にする点において失当であり、その余の点について検討するまでもなく、採用の限りではない。

二 争点2(本件配転につき不当労働行為の成否)について

1 前提事実に加え、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 会社における製造部門と工務部門の位置づけ

会社は、静岡県御殿場市に本店を置く御殿場テトラパック株式会社(以下「御殿場テトラ社」という。)及び東京都千代田区に本店を置く日本テトラパック株式会社(以下「日本テトラ社」という。)と同一資本系列にあるが、右三社の間では、会社は、御殿場テトラ社と共に紙パックの製造工場として位置づけられており、日本テトラ社は、紙パックの販売並びに紙パックに液体食品を充填する機械のリース及びメンテナンスを主な業務としている。

会社は、昭和五四年の設立以来、紙パックの製造に直接携わる製造課と、機械の保全、据付け及び改善を行う工務課との二課体制を採ってきたが、平成元年一月、製造課を製造部、工務課を工務部とそれぞれ改称し、工務部を、機械の保全を担当する工務課と、機械の据付け及び改善に当たる技術課に分かつとともに、新たに品質向上推進グループを設置した。平成三年九月には、更に工程改善プロジェクトチームを設け、品質向上推進グループ及び工程改善プロジェクトチームを併せて工場長直轄のプロジェクトチーム(直轄チーム)として発足させた。しかし、会社は、平成五年一月一日付けで直轄チームの解散を含む組織変更を実施し、従来の製造部に代えて、製造管理部、製造Ⅰ部、同Ⅱ部、同Ⅲ部を設け、従来直轄チームが取り組んでいた業務については、これら各部署において機械ごとに人員を配置して継続することとした。なお、その後、会社は、平成七年一月の組織変更を経て、平成九年以降再び製造課と工務課の二課体制を採用するに至っている。

会社において、紙パックの製造に直接携わる、いわゆる製造部門と、機械の保全、据付け及び改善を行う、いわゆる工務部門とでは、その業務内容の相違から、従業員の採用に当たって、工務部門に配置する者については、製造部門の機械のオペレーターとして配置する者とは別枠で募集し、かつ、新卒者を採用する場合、前記オペレーターとして配置する者には要求しない、大学又は工業高等専門学校卒業の条件を付していた。また、両部門をまたがる配転は、管理職を除いては必ずしも一般的ではなく、特に工務部門から製造部門の機械のオペレーターへの配転例は、工場の操業開始以来本件配転に至るまで皆無であった。なお、本件配転後、工務部門から製造部門の機械のオペレーターへの配転例が二件(平成八年九月一日付けで組合の中村伸治(以下「中村」という。)書記長に対し、工程管理部保全グループから製造課ラミネーターへの配転を命じた例、平成九年一月一日付けで組合の田久時治副委員長に対し、工程管理課工程管理グループから製造課スリッターへの配転を命じた例)存在するが、いずれも組合が会社を被申立人として兵庫県地労委に不当労働行為の救済を申し立て、係争中である。

また、従業員の給与等級については、平成四年当時、J1、J2、J3、S4、S5、S6、M7、M8、M9の順に昇格するシステムになっており、このうちJ1からS4まではほぼ年功序列的に昇格するものの、S4からS5に昇格するには試験に合格する必要があり、かつ、製造部門においては、PEと呼ばれる下級職制に昇進しなければならないという実態があったが、工務部門についてはそのようなことはなかった。

(二) 工藤の担当業務等

工藤は、昭和四二年三月に愛媛県立新居浜工業高等学校電気科を卒業し、昭和五四年八月、原告に雇用された。当時、工藤は既に第二種電気主任技術者の資格を有しており、御殿場テトラ社で工務課電気係の研修を受けた後、昭和五五年七月、原告の工務課電気係に配属され、工務部技術課を経て、平成三年九月、新設された直轄チームに配属された。

本件配転当時工藤が所属していた直轄チームは、機械から発生するウエスト(廃棄物)を削減するための調査研究を行う日勤(午前九時から午後五時一五分まで)のプロジェクトチームであり、電気技術、機械技術及び機械のオペレーター業務の各分野から人材を集めて組織されていて、工藤は、その電気担当として配属されていた。

これに対し、配転先の製造管理部は、テトラスタンダードラインと呼ばれる製造工程を担当する部署であり、従業員一七八名で構成されていて、このうち管理職と女性を除く一七三名が、一直(午前七時から午後三時まで)、二直(午後三時から一一時まで)、三直(午後一一時から翌日午前七時まで)の三つの直に分かれる、三交代制勤務に従事していた。ドクターマシン部門は、製造管理部の担当する製造工程の最後に位置し、前工程で発生した不良部分を除去する機械(ドクターマシン)のオペレーター業務を行うセクションである。工藤は、この機械のオペレーター(スタッフ)として配属されたが、このオペレーター業務は、安全教育を含めて二週間もあれば一人立ちして仕事ができるようになる程度の、専門技術を要しない単純作業であった。そのため、製造管理部では、繁忙期にはドクターマシン部門の正社員を前工程に配置し、空きの生じたドクターマシン部門には、派遣労働者を雇い入れて配置したり、御殿場テトラ社から応援を得るなどしてやりくりをつけていた。

また、製造管理部の職制は、トップに同部マネージャー、その下に製造工程全体にわたる直ごとのPE、さらにその下に機械の種類別に直ごとのチームリーダー及びスタッフという序列になっており、このうちチームリーダー及びスタッフが機械のオペレーターとされていた。会社の資格等級制度上、チームリーダーの上位に主任が位置づけられ、給与等級S5の適応職位は主任とされており、工藤は、本件配転当時、給与等級S5に位置づけられていたが、本件配転により、給与等級S4のチームリーダーの指揮監督を受ける立場に置かれた。なお、本件配転当時、機械のオペレーターでS5以上の給与等級の者は、工藤のほかには存在しなかった。

(三) 工藤以外の平成五年一月一日付け人事異動例

平成五年一月一日付け人事異動の対象となった従業員は三一名いたが、このうち製造部門以外の部門から製造部門への配転を命ぜられたのは、工藤以外に二名しかいなかった。うち一名は、総務部に所属していた篠崎美十志であり、製造管理部ドクターマシン部門に配転されたが、同人は、総務部配属前は製造部ドクターマシン部門に所属していた。もう一名は、直轄チームに所属していた大庭昭義であり、製造管理部製版部門に配転された。同部門は、工場における製造工程の始まりに位置し、印刷をするための版を製造する部門であり、製版に必要な機械操作に習熟していることはもとより、後工程である印刷工程に関する知識を有していることが要求されるところ、大庭は、千葉大学印刷工学科卒業という学歴を有し、御殿場テトラ社において製版担当のPEの地位にあったこともあり、直轄チームにおいても、製版技術担当として品質向上に取り組むなど、製版関係の知識・経験を豊富に有していた。

なお、平成四年七月当時、直轄チームには、工藤、大庭の他に五名のメンバーが所属していたが、平成五年一月一日付け人事異動によるこれらの者の配転先は、次のとおりである。すなわち、直轄チームの長であった川岸秀行が総務部マネージャーになったほか、野口英二、廣島透、野本亮一の三名は、それぞれ製造管理部プロセスエンジニア(製造工程全般に関する工程分析を業務とする。)、製造Ⅱ部プロセスエンジニア(製造Ⅱ部が担当するコーティングの工程全般に関する詳細な工程分析を業務とする。)、製造Ⅲ部プロセスエンジニア(製造Ⅲ部が担当するレックスラインと呼ばれる製造工程に関する詳細な工程分析を業務とする。)に配転され、所属する部署は異なるものの、いずれも製造工程におけるウエスト削減のための調査研究を職務とする点において共通していた。なお、他に、直轄チームの解散に先立つ平成四年七月、工務部機械担当に配転された樟木繁がいる。

2 原告は、本件配転は業務上の必要性に基づくものであるとして、(一) 工藤の工務部門における従前の勤務ぶりに問題があったこと、(二) 製造部門における業務が会社の主たる業務であること、(三) コスト低減計画における直間比率の見直しを受けて当時製造部門への人員シフトが行われていたことがその理由であると主張するので、以下検討する。

(一) 工藤の工務部門における従前の勤務ぶりに関し、証拠(<証拠略>)によれば、被告の審問手続における(人証略)は、工藤が昭和六三年一二月九日に電気事業法に基づく主任技術者(同法四三条により一定の電力規模以上の工場における電気設備についての自主的管理体制を確保するために事業用電気工作物の工事・維持・運用に関して監督する者として主任技術者免状の交付を受けている者のうちから選任し、通商産業局長に届け出ることを義務づけられている者のこと)を解任されたことを挙げ、右解任は、工藤の勤務ぶりに問題があったことによるものである旨供述していることが認められる。なるほど、証拠(<証拠略>)によれば、平成元年一月一一日付けで右解任の届出がされていることが認められるが、証拠(<証拠略>)によれば、工藤は、主任技術者の職務内容が工務課電気係(当時)の担当業務に対応していることから、昭和六〇年三月に工務課電気係から工務課技術係に配転になった際、工務課電気係の後任者が新たに主任技術者に選任されるべきであると考え、自ら進んで解任届けを作成し、上司に交付していたこと(届出が四年近く遅れたのは、右後任者が当時主任技術者免状の交付を受けていなかったため、その取得までの間、便宜上工藤を右地位に留め置く必要があったためと考えられる。)、右後任者は、工藤に代わって主任技術者に選任されたが、その後製造Ⅰ部に配転になった際、やはり主任技術者を解任されたことが認められ、右の事実に照らすと、工藤が主任技術者の地位を解任されたことが、その勤務ぶりに由来するものと認めることはできない。

もっとも、証拠(<証拠略>)によれば、前記(人証略)は、工藤の勤務ぶりの問題点として、<1> モーター台帳の整備を怠ったこと、<2> 昭和六一年に連続三日の無断欠勤をしたこと、<3>同じく昭和六一年にロボットカーのメンテナンスの担当を命じた業務命令に従わなかったことを指摘していることが認められるので検討すると、<1>のモーター台帳は、証拠(<証拠略>)によれば、機械に付いているモーターの履歴を記帳するものであるが、機械を据え付けた際に作成し、それ以降修理や取替えがあった場合にその旨記入することを予定して、昭和五五、六年ころ工藤自身が発案したものであり、法律上作成が義務づけられたものではなく、その後、工藤だけではなく、代々の担当者がその作成を徹底してこなかったものであることが認められる。<2>の無届欠勤については、これを認めるに足りる明白な証拠はない。<3>のロボットカーは、証拠(<証拠略>)によれば、屋内での使用を予定されたものであるにもかかわらず、屋外で使用していたこともあって故障が絶えず、昭和六一年当時そのメンテナンスを担当していた工藤は、上司から通常のメンテナンスを超えた改善を命ぜられ、御殿場テトラ社の担当者とも連絡を取りながら調査を行ったが、現状の形状を変えないで改造をすることは不可能に近いと判断し、その旨上司に報告したことが認められる。しかしながら、右に認定した事実が、それゆえに工務部門で勤務してきた工藤に対し、前例のない機械のオペレーターへの配転を検討しなければならない理由になるものと見ることは困難である。また、仮に会社が工藤の勤務ぶりに問題があると見ていたとすれば、昭和六一年から遠くない時期にそれなりの配転を命ずるのが通常であると考えられるが、実際にはこのような措置を採らないばかりか、平成三年九月には、各分野から人材を集めて組織したプロジェクトチームである直轄チームへの配転を命じているのであるから、工藤の工務部門における従前の勤務ぶりが本件配転の理由の一つであるとの説明は、合理性が乏しいものといわなければならない。

(二) 原告は、本件配転の理由として、製造部門における業務が会社の主たる業務であることを挙げるが、製造部門における業務が会社の主たる業務であることはそのとおりであるとしても、工務部門で勤務してきた工藤に対し、前例のない機械のオペレーターへの配転を命じる理由としては、やはり合理性が乏しいものというべきである。

(三) 原告は、コスト低減計画における直間比率の見直しを受けて当時製造部門への人員シフトが行われていたことも、本件配転の理由の一つであると主張する。しかし、平成五年一月一日付けの人事異動により、製造部門以外の部門から製造部門への配転を命じた例は、先に認定した二例しかなく、本件全証拠によっても、本件配転当時、製造部門以外から製造部門への人員シフトが一般的に行われていたとの事実を認めることはできない。

右のとおりであり、原告の主張する(一)ないし(三)は、いずれも本件配転が業務上の必要に基づくものであることを基礎づけるものではない。かえって、証拠(<証拠・人証略>)によれば、本件配転当時、製造管理部ドクターマシン部門において人員の不足は生じていなかったこと、他方、本件配転後、工務課電気係の人員は八名から六名に減少していたところ、会社は、本件配転直後の平成五年二月、工務課機械係に所属する従業員を工務課電気係に配転してその人員不足を埋めたことが認められ、右事実に照らせば、工藤をドクターマシン部門に配転すべき積極的理由はなく、かつ、工務課電気係に配転することができない理由もないというべきであり、本件配転が業務上の必要に基づくものであるということは困難というほかない。

3 ところで、労働組合法(以下「労組法」という。)七条一号にいう不利益取扱いに当たるかどうかは、労働者の団結権及び団体行動権を侵害する性質の行為であるかどうか、換言すれば、組合員の組合活動に対する意欲を萎縮させ組合活動一般を制約する効果を有する行為であるかどうかという観点から判断されるべきものと解される。したがって、ある取扱いが不利益であるかどうかは、制度の建前上や経済的側面のみから判断すべきものではなく、当該職場における従業員の一般的認識に照らして不利益であると受け止めるのが通常であるような取扱いであれば不利益取扱いに当たるものと解するのが相当である。

このような見地から本件を見ると、原告においては、従前から製造部門と工務部門とでは、その業務内容の相違から、それぞれの部署に配属する従業員の採用に関する取扱いを異にしていること、工務部門から製造部門の機械のオペレーターへの配転を命じた例は本件配転に至るまで一度もなかったこと、工藤は、原告に入社当時既に第二種電気主任技術者の資格を有しており、入社後工務部門に配属されてその中で異動を重ねてきた上、平成三年九月には、各分野から人材を集めて組織されたプロジェクトチームである直轄チームの電気担当として配属されたこと、しかるに、本件配転により製造部門に配属され、その中でも機械の一オペレーターという、派遣労働者等をもって代替することが容易な、専門技術を要しない単純作業に従事することを命ぜられたこと、しかも、工藤は、S5という、製造部門においては、職制(PE)にならなければ昇格できない給与等級を有しており、S5の適応職位は、資格等級制度上は、チームリーダーの上位に位置づけられる主任とされていたにもかかわらず、PEはおろか、その下に位置づけられるオペレーターの中でもチームリーダーの下位に位置する一スタッフとされたことなどの諸事情を総合すると、本件配転は、原告の従業員の一般的認識に照らして不利益であると受け止めるのが通常であるものと推認することができる。

そして、会社が合理化計画の一環として実施した本件雇止めをめぐって、組合がかつて行ったことのない無期限全面ストライキに及んだこと、これに関連して、会社は、組合の執行副委員長として右ストライキを指導した工藤を含む組合執行部の動きを非難する文書を従業員に配布したり、工場長が組合執行部に対する処分のあり得ることを示唆したり、その後、従前は認めていた就業時間中の賃金カットによる執行委員会の開催を一切認めなくなったこと、平成四年一〇月、会社が提示したマシン定員の削減案に関して、これに反対する組合との間で真っ向から対立していたこと、本件配転は、その矢先である同年一一月二四日に内示されたこと、工藤は、この間、組合の執行副委員長及び執行委員長(同年九月一日以降)として組合活動を指導してきたことは前提事実(第二の一)のとおりであり、かつ、本件配転には業務上の必要性が認められないのであるから(前記2)、以上の事実を併せ考慮すれば、本件配転は、会社の合理化計画にことごとく反対し、実力手段を厭わない活動を遂行する組合の指導的立場にある工藤を嫌悪して、そのような立場で合理化の実施に反対したことに報復する反組合的意図に基づくものとして、労組法七条一号(不利益取扱い)に該当する不当労働行為を構成するものというべきである。

原告は、本件配転は給与等級の低下を伴わないので不利益性はなく、かえって三交代勤務による手当増が見込まれる、利益をもたらす異動であると主張する。しかしながら、不利益取扱いとして労組法七条一号所定の不当労働行為に当たるかどうかは、制度の建前上や経済的側面のみから判断すべきものでないことは、右に説示したとおりである上、仮に工藤の受ける賃金額が三交代勤務による手当分だけ増加したとしても、それは三交代勤務に就くという労働条件に対応して支給されるものと考えられるから、そのことゆえに本件配転が不利益取扱いでなくなるということはできない。したがって、原告の右主張は理由がない。

4 さらに、本件配転は、前記のように組合の指導的立場にある工藤を組合活動の故に不利益な取扱いをすることによって、反組合的意図に基づいて、組合員の組合活動に萎縮的効果をもたらすものにほかならず、労組法七条三号(支配介入)に該当する不当労働行為をも構成するものというべきである。

三 争点3(本件各文書の配布及び秋山発言についての不当労働行為の成否)について

1 文書(一)(平成四年七月一〇日付け)は、本件雇止め問題が一応の終息をみた後に、右問題への組合の対応について会社の見解を表明したものである。

ところで、本件雇止め問題は、対象となったパートタイマー四名が会社からの雇止め通告を最終的には無条件で受け入れるという結果に終わったため、これに対する組合の取組みは、当該パートタイマーの利益にならなかったという評価も事後的には可能である。しかし、証拠(<証拠略>)によれば、右雇止め通告後一連の行為に出た組合の目的が、組合員である当該パートタイマーの雇用の継続という、その意味で組合員の利益の確保を図ることにあったことが認められるから、当初から闘争のみを目的としていたということができないことは明らかである。

これに対し、文書(一)中の「今回の一連の行為は「パートの為」を名目にした闘争のみが目的であったと会社は判断し」「争議指導の誤り」「今回の闘争での執行部の収拾能力のなさ」といった記載は、平成四年六月二五日付けの会社名義の文書中の「最初から存在しない「解雇」を言いたて」、同月三〇日付け文書中の「もともと存在しなかった「解雇」を意識的に取り上げ」「会社を危機に追い込むと同時に従業員の皆さんの生活をおびやかした組合執行部の動きは一体何だったのでしょうか。」「闘争のための闘争、ストライキのためのストライキといった闘争至上主義」などの記載と併せ考えると、組合執行部がありもしない事実を前提にして組合員の利益確保とは無関係に異常なストライキに及んだという印象を与えかねないものということができる。また、「今回の一連の行為は「パートの為」を名目にした、闘争のみが目的であったと会社は判断し」に続く「その確認を急いでおります。」という部分は、文書(一)が「今回の争議に関する会社側の総括」と題して従業員に配布されたこと、同年七月上旬のインフォメーションミーティングの席上、秋山工場長が従業員から、一連の争議について会社側では組合執行部に対して何らかの処分を考えているのかという質問を受けて、「就業規則に反するようなことがあれば、それなりの処分は考える。」旨答えたことに照らしても、会社の言う「確認」の結果次第では、組合執行部に対する何らかの処分があり得ることを暗に示唆するものといえる。

以上のように見てくると、本件文書(一)の配布は、組合の意思決定に介入するとともに、組合活動に対する萎縮的効果をもたらすものであるというべきである。

2 文書(二)(平成四年一二月八日付け)及び文書(三)(同月二五日付け)は、平成四年度冬期賞与をめぐる労使交渉が妥結した後に従業員に配布されたものである。

ところで、組合は、賞与の支給額からストライキに参加し就労しなかった時間に相当する金額を控除するという会社の方針に反対の立場から、会社と交渉を重ねたが、結局会社の方針を受け入れる方向で妥結し、また、交渉を重ねたことで結果的に賞与の支給時期が例年よりも遅れたことに照らせば、組合がストライキ分のカットに反対の立場で交渉に臨んだことは、組合員に不利益を与えただけで終わったという評価も事後的には可能である。しかし、証拠(<証拠略>)によれば、平成二年度及び三年度の賞与については、ストライキ参加分のカットは行われていなかったこと、組合執行部は、賞与からストライキ参加分をカットすることは就業規則や給与規程には規定されておらず、これを認めれば組合の存在価値がなくなると危惧し、この点については譲歩をしない方針で交渉に臨んだことが認められるところ、組合の方針としてそのような態度を採ることにも十分理由があるものというべきである。

これに対し、右両文書中の「一部の組合幹部の…些細なことにとらわれた闘争至上主義からは何も生まれてこないばかりか、会社を更なる困難と危機に導く結果となるものと思われます。」「今年は組合員の皆様には例年より一五日遅れて賞与が支給されるわけですが、こうした事態は、皆様の日々の実生活の重要性を十分認識していない組合執行部の「会社を困難に陥れることをあえて行う」闘争至上主義によるものと考えます。」「今回の事態を招いた責任が賞与の協議をかくれみのに闘争自体を選択した組合執行部にあるといえます。」との記載は、組合執行部がストライキ参加分のカットに反対の方針で交渉に臨んだことをもって、組合員の利益を無視する態度と決めつけるもので、このような内容の文書を二度にわたり従業員に配布したことは、賞与をめぐる労使交渉に当たってどのような方針で臨むかという、組合の意思決定に介入するものというべきである。

3 文書(四)(平成五年一月六日付け)は、マシン定員の削減をめぐって会社と組合が厳しく対立していた最中の平成四年一二月八日の労使協議会において、会社が組合に申し入れた平成五年一月一日から向こう一年間の三六協定の締結に対し、組合がこれを拒否した後に従業員に配布されたものである。

証拠(<証拠略>)によれば、三六協定の締結拒否は、組合員の意向を確認して組合の方針として決議されたものではなく、工藤が会社との交渉上の手段として述べたものであることが認められ、その意味では、「組合員の意向/生活状況も確認せず…委員長のみの判断で一方的に決める」との評価は必ずしも誤りであるとはいえない。しかしながら、仮に組合の方針決定のあり方に問題があったとしても、それは、組合内部において自主的に解決すべき問題であり、使用者が介入すべき事柄ではない。そうすると、右文書中の「このような多方面に影響を与える大きな問題を組合員の意向/生活状況も確認せず執行部や委員長のみの判断で一方的に決めることを許していいのでしょうか!!」「皆様方が力を合わせ一致団結し現在の執行部の方針を変えない限り本年度の三六協定は結べず残業手当も支給できません。」との記載は、組合の意思決定に介入するものと言わざるを得ない。

4 秋山発言(一)(「組合が会社を訴えた。これは、結果的には、組合員一人一人が会社を訴えたことになる。」)は、組合が本件配転について不当労働行為の救済を申し立てた直後に、インフォメーションミーティングという、会社の方針等について従業員に情報を伝達する場において、工場長によって表明されたものであるが、本社との調整の上で作成された原稿を読み上げる方法でされたものであるところ、証拠(<証拠略>)によれぱ、工場長は、会社にあっては、本社に常駐する社長、副社長に次ぐポストであり、工場における最高責任者であることが認められる。右の事実によれば、原告は、右発言によって、会社として本件救済申立てを問題視していることを組合員に告知したものということができるし、また、右発言の内容は、組合のした不当労働行為の救済申立ては構成員である各組合員の責任に帰属することになるというものであるから、組合員に対し、本件救済申立てについて、組合員一人一人がその責任を問われかねないという懸念を与えるものということができる。そうすると、右発言は、そこに明らかな虚偽の事実や組合に対する誹謗中傷が含まれていないとしても、不当労働行為の救済申立てをし、これを遂行するかどうかという、組合の意思決定に介入するものであることには変わりがないというべきである。

5 秋山発言(二)(「会社としては和解は考えておらず最高裁まで争う。和解をすると、その和解金が弁護士と支援組織に流れる例があるということは経営者の間では常識になっている。」)は、インフォメーションミーティングの席上表明されたものであるが、「会社としては和解は考えておらず最高裁まで争う。」との部分はともかくとして、「和解をすると、その和解金が弁護士と支援組織に流れる例があるということは経営者の間では常識になっている。」との部分は、その内容自体、組合を誹謗中傷するものであると同時に、それによって、組合活動に対する萎縮的効果をもたらすものと認めることができる。

6 以上によれば、本件各文書の配布及び秋山発言は、いずれも、組合の意思決定に介入するものか又は組合活動に萎縮的効果をもたらすものに当たり、加えて、その内容、配布ないし発言の時期等に照らし、いずれも反組合的意図に基づくものであることも明らかであって、労組法七条三号(支配介入)に該当する不当労働行為を構成するものというべきである。

四 争点4(平成五年四月ころの脱退勧奨の有無及び右事実についての不当労働行為の成否)について

1 証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 平成五年四月五日ころ、会社工場内の掲示板に「せいしんくらぶ設立の御案内」と題する文書が掲示されたが、右文書は、「会社で働く未組織労働者の地位の保全・向上を目指し、健全な社会人として安心して働ける職場を目指す」ことが設立の趣旨であるとして、会社の従業員に同くらぶへの参加を呼びかけたものであり、同くらぶの発起人として組合を脱退した六名の名前が記載されていた。同月中旬、同くらぶの設立総会が工場内の大会議室を使って開催され、秋山工場長もこれに出席した。

(二) そのころ、会社の職制から組合員に対し、次のような働きかけがあった。

(1) 組合の執行委員前田祥男(製造Ⅲ部所属)は、同年四月一〇日ころから、秋山工場長に再三呼び出され、会社に反旗を翻すような人間を管理職として置いておくことはできないなどとして組合を脱退するよう言われ、前田は、同年五月八日の執行委員会でその旨を報告をした。

(2) 組合員堀口正幸(製造Ⅲ部所属)は、同じころ、上司の蔦本七朗課長に再三呼び出され、組合を脱退するよう言われた。

2 右1(二)の各働きかけは、その内容及び態様に照らし、工場の業務全般の管理運営を職務とする秋山工場長ないし上級職制である蔦本課長が、反組合的意図をもって、組合員に対し、組合からの脱退を勧奨したものであることは明らかであり、労組法七条三号(支配介入)に該当する不当労働行為を構成するものというべきである。なお、本件命令書の理由第2の7の(4)記載の事実(組合の執行委員木野聡が、同月二一日、大坪義轄課長から「元上司として言うけど、執行委員長について行ってはいけない。組合はどうするんや。」と言われたとの事実)については、(証拠略)に被告の認定事実に沿う部分があるが、右部分のみによっては右主張事実を認めるには足りないといわざるを得ず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

五 争点5(平成六年二月ころの脱退勧奨の有無及び右事実についての不当労働行為の成否)について

1 証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 組合の中村執行副委員長は、平成六年年(ママ)二月一九日、組合の北林執行委員から、会社が警察から組合の名簿提出を求められているとの噂が出ていると聞き、事の真偽を確認すべく、同月二三日、林総務課長に面談を求めたところ、同課長は次のとおり説明した。「神戸西警察署公安課から電話があり、「二月一三日にJMIUの大会があり、組合がJMIUに加入したという報告を受けているが本当か。」と聞かれたので、会社としては、「確認していないことなのでわかりません。」と答えたが、警察からは「こちらは確認しているので事実です。共産党系の上部団体なので名簿がほしい。」と言われた。「現在、組合員の出入りが多くなっているので分からない。」と答えると、「分かり次第提出してほしい。」と言われた。また、警察から会社を訪問したいと言われたが、来られるのは嫌なので、こちらから行きますと答え、二月二一日の午前一〇時に西署に行って来た。」。

工藤は、同月二三日、中村から右の件について報告を受け、翌二四日、林総務課長に説明を求めたところ、同課長は、中村に話した内容と同様の説明を工藤にもした。

(二) このころ、会社のマネージャーや複数のPEから組合員に対し、次のような働きかけがあった。

(1) 同月一八日、北林執行委員は、高間PEから「上部に入っている現在の組合にいると警察のリストに載り、再就職できなくなる。組合を辞めた方がよい。」と言われ、同月二一日には、勝又PEと小林PEから「警察から電話があってJMIUに入っている組合員のリストを提出してくれと言われた。会社はリストを出すので組合を辞めた方がよい。」と言われた。

(2) 同月二一日、白木組合員は、勝又PEからの自宅への電話で、「上部団体に入っていると、組合員名簿を公安に提出する。」と言われた。

(3) 右同日、番屋組合員は、勝又PEから「上部は共産党と関係している。おれが言ってもだめなら白木に言わせようか。白木の組織には赤狩りか何かの組織がある。タイムリミットは今週末。みんなが辞めるのにお前だけ残ってやれるか。」と言われた。

(4) 右同日、小松組合員は、高間PEから「組合は辞めた方がええんちゃうか。」と言われたので田中PEに相談したところ、同PEから「友人として言うが、公安にリストが載るから辞めた方がええんちゃうか。」と言われた。

(5) 同月二二日、広田組合員は、白木組合員とともに、野口マネージャーと小林PEに呼び出され、「警察に組合員リストが渡ることがどういうことか分かっているのか。」「自分自身自衛隊入隊の際に警察に近況調査をされた。警察は思想問題に関する裏のリストを握っている。」「裏のリストの存在自体は幾ら警察に問い詰めても発覚するものではないが、リストによって些細な事で逮捕された例が幾らでもあることは世の中の常識である。悪いレッテルが貼られる。」「個人的に考えて、そのような悪いレッテルを貼られると、余りにも組合員やあなたが可哀想である。今、組合員にこのことを伝えなければならないと判断した上でのことである。」などと言われた。

(6) 右同日、三木組合員は、久住PEから「会社の同僚として言うが、このまま組合に残って上部に入ったら、三月一日に警察に名簿を提出するので、それに名前があったら再就職もできなくなる。上部を抜けたとしても上部からの嫌がらせが自分だけでなく家族にもかかってくるぞ。だから辞めた方がよいと思う。これからは組合に残っていれば査定にも響く。」と言われた。

(7) 右同日、橋尾PEは、野口マネージャーから「JMIUは共産党系である。警察から、JMIUに入っているなら組合員のリストを提出するよう求められた。会社は協力する。警察からは、連合などの中立的なところはよいが、共産党系だからと言われた。月が変われば提出する予定である。あとは個人の判断に任せる。」などと言われた。

(8) 右同日、最相組合員は、小林PEから「組合に入っていたらブラックリストに載り、会社を変わる時にもこのことが理由で駄目になるかもしれない。家の人にも迷惑がかかるかもしれないので、組合を辞めた方がいいと思う。」と言われた。

(9) 右同日、高尾組合員は、小林PEから呼び出され、「上部に入ると警察のリストに載る。組合を辞めろとは言わないが、このことだけは教えておく。」と言われた。

(10) 右同日、吉岡組合員は、小林PEから「個人的な話だが、警察の話は聞いているか。これは本当のことである。名簿を提出したら再就職の時や子供の入学の時など、興信所が調べたら分かることだから、一生影響する。来月初めには提出することになるから、今週中に結論を出さないといけない。」と言われた。

(11) 右同日、森野組合員は、高間PEから「家族がいるから今週中に組合を辞めた方がいいのではないか。」と言われた。

(12) 同月二三日、綱崎組合員は、久住PEから「一個人として言うが、組合を辞めた方がよいのではないか。」と言われた。

(13) 右同日、花房組合員は、野口マネージャーから「現在組合が加入している上部団体は共産党系であるので、組合員の名簿を警察に提出しなければならない。そうなると、他の会社に再就職するときに不利であるだけでなく、家族にも迷惑がかかるし、後々自分のためにもよくないので、組合を抜けた方がよいのではないか。」と言われた。

(14) 右同日、岩山和成組合員は、勝又PEからの自宅への電話で、「組合がJMIUに加入したため、警察の公安に組合員の名簿をすぐに提出するように言われている。それを提出するとブラックリストに名前が入り、再就職できなくなるので、組合をやめた方がよいと思う。」と言われた。

(15) 同月二四日、綱崎組合員は、田中PEから「公安に名簿を提出する日があるので、二月中に組合を辞めたら。」と言われた。

2 右1(二)の各働きかけは、その発言内容に照らし、組合員に対し、組合がJMIUに加入したことに伴い警察から組合員のリストを提出するよう要求されているとして、組合を脱退しなければリストに名前が載り、不利益を受けるおそれがあることを示唆し、もって、反組合的意図に基づき、組合を脱退するよう勧奨したものであることが明らかである。そして、右に認定したとおり、総務課長の地位にある者が組合の執行委員長及び執行副委員に対し、警察からJMIUが共産党系の団体であることを理由に組合員の名簿の提出を要求されているとの説明をしていること、短期間の間に野口マネージャー他四名のPEによって同種の働きかけがなされていることに照らせば、これらの働きかけは、いずれも会社の意を体して会社のためにされたものと推認することができる。

以上によれば、右(二)の各働きかけは、いずれも、労組法七条三号(支配介入)に該当する不当労働行為を構成するものというべきである。

六 争点6(初審命令を維持して救済を命じた部分について救済利益の有無)について

組合が神戸地方裁判所に対し、文書(一)ないし(四)の配布、秋山発言(一)及び(二)並びに平成五年四月ころ及び平成六年二月ころの各脱退勧奨を含む会社ないし秋山工場長の行為について、不法行為に基づく損害賠償を請求する訴えを提起し、平成一〇年六月五日同裁判所において言い渡された本件判決に基づき、仮執行をしたことは、当事者間に争いがない。しかしながら、司法裁判所において損害賠償を求める私法上の請求が(一部)認容され、その仮執行がされたからといって、右事実が、労組法に基づき不当労働行為の是正、排除という司法裁判所とは別途の観点から行う労働委員会の救済命令の発令の必要性に影響を与えるものではないし、そもそも、本件においては、本件判決の言渡し及び仮執行は本件命令の発令後の事実であるから、同命令の違法事由となり得ないものというべく、原告の主張は失当に帰する。

七 結論

以上の次第で、被告が本件配転につき不当労働行為の成立を否定したことは違法であって取消しを免れないが、文書(一)ないし(四)の配布、秋山発言(一)及び(二)並びに平成五年四月ころ及び平成六年二月ころの各脱退勧奨について不当労働行為の成立を認めたことに違法はない。

よって、原告の甲事件請求は理由がないから棄却し、参加人らの乙事件請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一〇年一二月一〇日)

(裁判長裁判官 福岡右武 裁判官 矢尾和子 裁判官 西理香)

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